3-5 原子核からニュートリノ質量の謎に迫る

−京コンピュータによる二重β崩壊の高精度計算−

図3-12 48Caから48Tiへの二重β崩壊の模式図

図3-12 48Caから48Tiへの二重β崩壊の模式図

(a)は2ニュートリノ二重β崩壊,(b)はゼロニュートリノ二重β崩壊を表します。いずれも2個の中性子(青い丸)が2個の陽子(赤い丸)に変化します。(a)では崩壊と同時に2個の電子と2個の反ニュートリノを放出し、(b)では2個の電子のみを放出します。(b)においては、ニュートリノ質量,核行列要素,半減期が図中の式のように関係づけられます。

 


ニュートリノは素粒子の一つであり、その基本的性質は物質の究極の姿を知る上で不可欠であるものの、その多くは謎に包まれています。ニュートリノに質量があることは、スーパーカミオカンデ等による観測から確立されていますが、その値は分かっていません。本研究では、最新の原子核理論に基づく大規模数値計算によって、二重β崩壊と呼ばれる原子核の崩壊現象からニュートリノの質量を得るのに必要な原子核構造データを高い信頼度で計算することに成功しました。

二重β崩壊とは、図3-12に模式的に表されたように原子核内の2個の中性子が2個の陽子に同時に変わる現象で、48Caなど10種類ほどの核種で観測されています。これまで観測されている二重β崩壊は、崩壊と同時に反ニュートリノを2個放出する2ニュートリノ二重β崩壊と呼ばれるものですが、ニュートリノが反ニュートリノと同じ粒子であるという性質を持つならば、ニュートリノを放出しないゼロニュートリノ二重β崩壊も起こり得ることが知られています。ゼロニュートリノ二重β崩壊はその半減期が2ニュートリノ二重β崩壊よりも長く、いまだ観測されていませんが、観測から半減期が得られれば、図3-12(b)の式からニュートリノ質量が決まります。ただし、そのためには核行列要素と呼ばれる核種固有の値が必要となります。

核行列要素とは、2個の中性子が2個の陽子へと変化する「変わりやすさ」を表す量です。これは、原子核実験から直接求めることはできず、核子の量子多体問題を解いて理論的に与えるほかありません。これまでは48Caの二重β崩壊に対しては全48核子のうち、崩壊に主要な役割を果たす8核子のみの自由度を活かした粗い計算が行われてきました。本研究では京コンピュータを用いることによって、32核子の自由度を活かした精度の高い大規模量子多体計算を遂行することに成功し、従来の値に対し約30%大きな核行列要素が得られました。これは従来の計算で無視された効果の主要部分を取り入れた計算であるため、信頼度の高い値を与えると考えられます。

現在、ゼロニュートリノ二重β崩壊の測定が世界各地で精力的に行われています。近い将来、その観測に成功した際には、本研究で得られた核行列要素がニュートリノ質量を得るためのデータとして使われることが期待されます。



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