5-19 窒化物半導体の格子変形をリアルタイム観察

−従来の常識を覆す新たな格子変形モデルを提唱−

図5-47 窒化ガリウム(GaN)結晶成長中のその場放射光X線回折
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図5-47 窒化ガリウム(GaN)結晶成長中のその場放射光X線回折

(a)SiC基板上にGaN薄膜を結晶成長しながら、同時に放射光X線回折を測定しました。(b)GaNの膜厚の増加に伴い、GaN回折ピークの出現やピーク位置が変化しています。(c)回折ピーク位置の膜厚変化をプロットしたところ、H方向よりもL方向で格子面間隔が著しく変化し、従来の弾性変形では説明できないことが分かりました。単位r.l.u.はreciprocal lattice unitsの略で逆格子の単位です。値が大きい(小さい)ほど、GaNの格子間隔は小さい(大きい)ことに対応します。

 


窒化ガリウム(GaN)に代表される窒化物半導体はLEDや高周波パワーデバイスとして実用化されており、その応用範囲の拡大がなお一層期待されています。このGaNを光及び電子デバイスとして用いると、従来のシリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)では成し得なかった消費電力の大幅な削減が可能となることから、省エネルギー社会の実現に向けてさらなる普及が求められています。窒化物半導体は1994年に高輝度青色LEDが発表されて以降、比較的短時間で普及に至ったという経緯から、今なお、結晶表面や格子変形,欠陥構造の詳細など未知な部分が多いとされています。このような結晶成長の基礎を十分に理解することは、デバイスの性能を飛躍的に向上させるために必要不可欠です。

本研究は、大型放射光施設SPring-8のBL11XUにおいて、分子線エピタキシー(MBE)装置とX線回折計(XRD)とが一体化したMBE-XRDシステムを利用し、GaN薄膜の格子変形の様子をリアルタイム観察しました。図5-47(a)の測定配置で、炭化ケイ素(SiC)基板上にGaN薄膜を結晶成長しながら、同時にX線回折を測定しました。図5-47(b)は得られた実験データの一例です。GaNの膜厚が0.8 nm以上でSiC基板の回折ピークに加えて、GaNの回折ピークが確認され、わずか2原子層程度の超薄膜でも、格子変形の様子を定量的に捉えられることが分かりました。図5-47(c)はGaNの格子間隔を反映する回折ピークの位置を面内垂直方向(L方向)と面内方向(H方向)でそれぞれプロットしたものです。従来の常識とされている弾性変形では、L方向の格子間隔が小さくなる分だけ、H方向の格子間隔が大きくなるように、両方向が連動して完全歪から完全緩和の状態に移行すると考えられてきました。しかし、実験結果ではH方向はほとんど変化しないのに対して、L方向では著しく格子間隔が小さくなり、従来の弾性変形とは明らかに異なることを見いだしました。この現象を理解するため、GaN結晶中への点欠陥(Gaアンチサイト欠陥)の取り込みによる単位格子の膨張を仮定することで、実験結果を良く再現できました(図5-47(c)の計算結果)。このことから、GaN薄膜は成長条件によっては、点欠陥が予想以上に多く結晶中に取り込まれてしまうことが示唆されました。

結晶成長中の格子変形をリアルタイム観察した実験データを基に、GaN結晶への点欠陥の混入による新たな格子変形モデルを提唱しました。将来的には、この知見を基に成長条件を最適化することで、点欠陥の混入を抑制した高品質GaN結晶を作製することが可能になると期待されます。



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